小児がんなどの難病で余命を宣告されている子どもに対し、安心して子どもらしく生き、遊ぶ時間を提供するとともに、家族に対しては休息の確保とこころのケアによる支援を行う「こどもホスピス」。日本にはまだ大阪府内に2カ所しか設置されていないこの施設の必要性を訴える団体・関係者ら約300人らが集い、2月11日、「第1回全国こどもホスピスサミット in 横浜」(主催・NPO法人横浜こどもホスピスプロジェクト=田川尚登代表理事)がかながわ労働プラザ(横浜市中区寿町1)で開催されました。医師やホスピス運営者、今後ホスピス設立を目指す団体関係者らが小児緩和ケアの現状と課題を共有・討論し「全国こどもホスピスサミット横浜宣言」を採択しました。
同サミットは、2020年度に横浜市内でのこどもホスピス開設を目指す「横浜こどもホスピスプロジェクト」が「講演やシンポジウムを通して小児緩和ケアの現状を全国発信し、ネットワークを広げたい」と企画しました。
英国で始まった「こどもホスピス」は、病院ではなく「もう一つの家」と位置付けられています。そこでは、限りある命を懸命に生きる子どもひとり一人に寄り添ったデイサービスや遊び・学びのプログラムや、家族も休息しながら安心して過ごせる宿泊施設、温かさに満ちた精神的ケアが提供されています。きょうだい児や地域の友人との交流も可能になところがほとんどです。
また、税金や公的制度ではなく地域やさまざまな団体からの「寄付」で成り立つ「フリースタンディング」(独立)も重要な理念の1つになっています。
現在、日本国内には淀川キリスト教病院(大阪市東淀川区柴島1)、TURUMIこどもホスピス(大阪市鶴見区浜1)の2カ所に開設されています。
TURUMIこどもホスピスが調査したところ、15歳未満の子ども1633万人(2014年)のうち、医療ケアが必要な子どもは約15万人。そのうち、こどもホスピスの対象となる「いのちを脅かされる病にある」(Life-threatening condition=LTC)の子どもは約2万人とされていますが、その子どもたちが家族やつながりある人たちとともに深く、楽しみを味わいながら生きる時間を過ごせる施設はほとんどない状況です。

サミットの第1部は、「小児緩和ケアと子どもの命」をテーマに、医師・看護師の3人が講演しました。
そのうち、2017年秋に放送された人気ドラマ「コウノドリ」の監修を務めた神奈川県立こども医療センター新生児科部長の豊島勝昭さんは、先天的な病気や障害があっても集中治療をせずに「ともに限られた時間を生きる」選択をする家族が同センターNICUには年間20組いるという現状と、その家族達に対する病院の取り組みをドラマやニュース画像を交えて紹介しました。
「ご家族は看取るために家に帰るのではなく、赤ちゃんの限りあるかもしれない時間を一緒に生きるために退院する。様々な苦痛に向き合う赤ちゃんとご家族だからこそ、命を讃え、家族らしく過ごせる時間を医療者として支えたい」と、生と死に日々向かい合う新生児期の緩和ケア・ターミナルケアについて言及。さらにこどもホスピスについて「赤ちゃんが有終を迎えるために、地域のなかで家族を支え、家族の精神的苦痛を緩和する場」として位置付けていました。

また、第2部では国内外のホスピス事例や設立の動きについて発表が続きました。「TURUMIこどもホスピス」ゼネラルマネジャーの水谷綾さんは、大阪市鶴見緑地駅前エリア整備・管理運営事業者として「あそび創造広場」の企画とホスピスの地域開放など、コミュニティに閉じない運営が子どもと家族の体験を深めていることなどを具体的に紹介しました。
また、財政面での課題について「1人一人のこどもの願いをかなえ、深く生きる場所として運営するために、年間6000万円の経費がかかります。このうち5000万円を寄付でまかなうことを目指しています」と話し、地域で支える「コミュニティ型」ホスピスとして情報を発信し、きめ細やかな手法による寄付が必要であることについても言及していました。
このほか、NHKアナウンサーを退職後に社会福祉士・国立成育医療センター「もみじの家」ゼネラルマネジャーとなった内多勝康さんや淀川キリスト教病院小児科部長でこどもホスピス病棟の責任医師である鍋谷まことさんらがそれぞれの施設紹介・課題について紹介しました。
最後に、主催者の田川さんが「こどもホスピスは、医療・福祉・教育の狭間にいる子どもや家族に寄り添います」

「こどもホスピスは、命の脅かされている子どもと家族に、豊かな時間を提供します」「こどもホスピスは地域とともに歩む、開かれた施設を目指します」「私たちは、小児緩和ケアに取り組む支援施設を全国に広げていくために協力し合います」という4項目からなる「横浜宣言」を採択して閉会しました。
TURUMIこどもホスピスを運営する一般社団法人こどものホスピスプロジェクト理事長の高場秀樹さんは「私たちも、きょうのようなキックオフイベントを行ってから6年をかけてコミュニティ型こどもホスピスを実現しました。駅から3分、公園の中にあるホスピスは重い病気のこども、家族、地域の人たちがいつでも来て、遊べる施設です。横浜も、設立に向け、ぜひ頑張ってほしい」とエールを送っていました。